商学総論(商業学)
講義ノート
担当 濱岡豊
講義ノートの内容 1.商業学の位置づけと展開 1)商業、流通の歴史 2)商業の存在意義 3)流通の機能 4)流通機構(機関) 5)商学における商業学の位置づけ 6)商業、流通研究の歴史 参考)商業についての定義 2.マクロマーケティング 1)商業の現状 2)小売機構 3)流通の国際比較 4)商業政策 5)マーケティングと経済発展 6)その他のマクロ・マーケティングの研究範囲 3.ミクロマーケティング 1)マーケティングの考え方 2)マーケティング戦略の決定手順 3)マーケット・セグメンテーション 4)知覚マップ 5)知覚マップを使ったポジショニング変更:A社の事例 6)広告表現についての研究 7)製品についての意思決定 8)マーケティング(リサーチ)の将来と課題の鳥瞰図 9)その他のミクロ・マーケティングの研究範囲 4.商業学への研究アプローチと今後の講義 1)ミニケース『危機に瀕したブランドを救う二つの戦略オプション』 2)参考文献:学習ガイドにかえて
1.商業学の位置づけと展開 1)商業、流通の歴史: 日本における米の流通の歴史的変化 出所)江尻弘(1979),『流通論』,中央経済社,p.67 2)商業の存在意義 ・p人の生産者、c人の消費者が存在。 直接交換の場合p×c回の取引が必要。 間接交換(商人がすべての生産者の商品をすべて取りそろえている)の場合、p+c回の取引ですむ。 出所)石原武政、池尾恭一、佐藤善信(1989),『商業学』,有斐閣Sシリーズ,p.29 3)流通の機能 流通:生産と消費の懸隔を解消する。 流通機能:「ある単一の流通機関によっても遂行され統制されうる流通活動の作業単位」 →一つ以上の流通機関に垂直、水平方向に分割可能。 流通活動にはいろいろな側面がある。 出所)鈴木安昭、田村正紀(1980),『商業論』,有斐閣新書,p.44 4)流通機構(機関):流通機能を果たす主体(企業、個人商店など) ・現代における流通の例 出所)久保村隆祐編著(1996),『商学通論 3訂版』,同文館,p.4-8 ・流通における3つのフロー(流れ)と流通機能 商流:所有権のフロー 物流:財自体のフロー 情報流:情報のフロー 出所)鈴木安昭、田村正紀(1980),『商業論』,有斐閣新書,p.48 出所)鈴木安昭、田村正紀(1980),『商業論』,有斐閣新書,p.49 ・流通機能を負担する流通機関の例 出所)宮原、望月、有田(1987),『商学総論』,同文館,p.93 すべての流通機能:広義の商業 所有権移転のみ:狭義の商業 5)商学における商業学の位置づけ 出所)荒川祐吉(1983),『商学原理』,中央経済社,p.179 6)商業、流通研究の歴史 最古の商業文献:9〜10世紀 アラビア人ディミスキ『商業の美、良き商品と悪しき商品の知識ならびに商品詐欺師の偽造に関する指針』→実務上の経験的知識を集めたもの。 14〜15世紀 イタリア(当時のヨーロッパ商業の中心)では上と同様の商業記録が多数公表される。 15世紀末 市場の世界化、商品の量、種類の発展的増大→商業業務の複雑化。商業と政治権力との結合。→商業を中心とする全経済活動を解明するための「商業学」の端緒。 →Savary(1673)'Le parfait Negociant': 商業に関する実務知識、流通組織、輸出業の原理など。 Ludovici(1752-56)'Eroffnete Akademie der Kaufleute':商業辞典(商品論、商取引論、簿記などについて体系的に記述) Leuchs(1791)'Allgemeive Darstellund der Handlungswissenschaft' Leuchs(1804)'Vollstandige Handlungswissenschaft' →商業経営論(Privathandelswissenschaft)と商業経済論(Staathandelswissenschaft)を区別して体系的に記述。 商業学発展の背景:商人資本の発展→その後の産業革命:製造業(産業資本)の発展 →生産の論理の強化:商業経済論の分離→経済学の発展(Adam Sbith(1776)『国富論』)→商業学の分裂、衰退 →商業経営に必要な知識体系としての商業学。 →Schar(1911)'Allgemeine Handelsbetriebslehre':新しい体系を与えようとする努力 →独占段階:製造業者の巨大化 Shaw(1915)'Some Problems in Market Distribution': マーケティング論の登場(米国) 個別産業資本(個別の製造業者)が以下に市場に適応すべきかを考察するもの→マーケティング 独占的な産業資本にとっての流通費用の相対的増大、流通機構の(製造業と比較した)相対的な非能率、競争の激化を背景。 Shawにおける基礎概念 需要創造:消費者中心志向 マーケティング機能:マーケティング操作の方法、現実の設定方法 製品差別化:販売のみでなく製品計画もマーケティングに含まれる。 中間商人の位置づけ:産業資本による商業資本の支配→チャネル政策論へ。 7)商業・流通とマーケティング(ともに英語ではmarketing) 商業学:商業資本を中心に考察 マーケティング:産業資本を中心に考察 この大学での商業学の考え方=上の「商業学」+上の「マーケティング」=『マーケティング』と考えている。 ただし 、巨視的に見た場合:マクロ・マーケティング macromarketing←商業経済学の視点 機関の立場から見た場合:ミクロ・マーケティング micromarketing←商業経営学の視点 参考)商業についての定義 出所)保田芳昭、加藤義忠編(1994),『新版 現代流通論入門』,有斐閣ブックス,p.105
2.マクロマーケティング 流通を巨視的にみる立場からの研究。 1)商業の現状 商業者(小売、卸売) 図表 平成6年度商業統計速報の結果 2)小売機構 小売(retail):最終消費者に対して商品を販売。→いろいろな小売機構:それを分類する視点も様々。 出所)田口冬樹(1991),『現代流通論』,白桃書房,p.118 ・主要な小売業態の特徴 出所)江尻弘(1979),『流通論』,中央経済社,p.137-139 ・小売店舗と消費者の行動 小売ミックス:小売店が操作可能な変数群の組み合わせ→これらの違い→業態の違い。 出所)田口冬樹(1991),『現代流通論』,白桃書房,p.115-116 ・小売店舗の選択 :小売吸引力=f(小売ミックス) ・推定結果 出所)中西正雄(1983),『小売吸引力の理論と測定』,千倉書房,p.238 ・小売形態の発展 なぜいろいろな小売形態が発生、消滅していくのか? (地域)経済社会構造の変化、消費者の選好、行動の変化、小売業者間の競争、小売業者のコスト構造の変化 出所)田口冬樹(1991),『現代流通論』,白桃書房,p.195 ・小売形態の発展の理論 小売の輪(wheel of retailing hypothesis)仮説 ・真空地帯理論 出所)田口冬樹(1991),『現代流通論』,白桃書房,p.187 出所)田口冬樹(1991),『現代流通論』,白桃書房,p.188 3)流通の国際比較 ・小売店舗 人口あたりの小売店舗数は西欧諸国と比べて2倍程度。 なぜだろうか?非効率的なのか? これまでの説明)大店法による規制によって零細な小売店舗が温存されている。 女子、退職者の一般企業への就職機会が少ない。→家族とともに小規模小売店を経営する。 新たな説明) 社会的物流費用を最小化するという意味で、効率的な小売店舗密度が決定される。 理論によると、店舗密度は、消費者の移動費用、家庭内在庫費用の増加関数 小売業者の在庫費用、仕入れ費用、人口密度の減少関数。 出所)成生達彦(1994),『流通の経済理論』,名古屋大学出版会,P.242 ・卸売の多段階性:日本は他の国と比べて多くの卸を経ている。→非効率か? 出所)久保村隆祐編著(1996),『商学通論 3訂版』,同文館,p.88-96 ・新たな説明 統計データ上の問題などを修正して品目別に推定 →卸売段階数も米国より多いものの、大きな差はない。 →マークアップ率 日本の方が低い。→卸売についても非効率とはいえない。 卸売段階数は多いものの狭い住居、劣悪な交通事情という社会・経済環境に効率的に適応するために、小売店舗数が多くなり、それに効率的に配送するために間接流通方式が選択されたため。平均粗マージンも低く、日本の流通経路は長いわけでも、非効率的でもない。 出所)成生達彦(1994),『流通の経済理論』,名古屋大学出版会,P.250 出所)同,P.255 4)商業政策 市場の失敗を防ぐために国や自治体による政策が必要となる。 出所)石原武政、池尾恭一、佐藤善信(1989),『商業学』,有斐閣Sシリーズ,p.215 出所)神奈川県商工部商工観光課『大型店出店調整のしくみ』 出所)日本経済新聞,1997年4月16日 出所)日本経済新聞3/31/96 5)マーケティングと経済発展 マーケティングの発展段階と経済の成長段階との間には正の相関がある 。 出所)Kaynak, Erdener(1986),Marketing and Economic Development,Prager Publishers(阿部、白石訳『マーケティングと経済発展』ミネルバ書房),p.106-107 途上国を工業化させるためには流通システムを整備することが必要。 出所)Kaynak, Erdener(1986),Marketing and Economic Development,Prager Publishers(阿部、白石訳『マーケティングと経済発展』ミネルバ書房),p.47,p.77 6)その他のマクロ・マーケティングの研究範囲(○:三田で開講されている科目) 卸売機構 マーケティング史 ○マーケティング学説史 広告の経済効果 商圏 など。 出所)日本経済新聞,1996年7月30日 出所)日本経済新聞,1996年11月7日
3.ミクロマーケティング:個別の機関(企業)からの視点。 1)マーケティングの考え方 「マーケティングとは、個人や集団が、製品および価値の創造と交換を通じて、そのニーズや欲求を満たす社会的・管理的プロセスである」 マーケティング・マネジメント:需要を管理すること。→標的市場との望ましい交換を達成させるための作業。 「マーケティング・マネジメントとは、標的とする顧客との間に有益な交換関係を創出し、構築し、維持することによって組織目標を達成しようとする、プログラムの分析、計画化、実行、管理の全体である。」 ・企業の理念の分類 生産志向 「消費者は入手しやすく、手頃な価格の製品を好む」ことを前提とする。→生産プロセスの改善、流通効率の追求が中心となる。 製品志向 「消費者はもっとも品質がよく、性能がよく、格好の良い製品を好む」ことを前提とする。→製品の改善に注力する。 販売志向 「売り手がかなりの販売努力をしなければ消費者は多くを買わない」ことを前提とする。→猛烈な売り込みに注力。 マーケティング志向 「標的市場にどんなニーズや欲求があるかをあきらかにし、それによって望まれている満足を競争相手よりも効果的・効率的に供給することによって組織目標を達成できる」ことを前提とする。→「つくれるものを売るのではなく、売れるものをつくれ」 出所)Kotler,Philip and Gary Armstrong(1989),Principles of Marketing 4th ed.,Prentice-Hall(和田充夫、青井倫一訳『(新版)マーケティング原理』ダイヤモンド社,1995年,p.21-22) 2)マーケティング戦略の決定手順 ・手順(こうならない場合もある) 出所)Kotler,Philip and Gary Armstrong(1996),Principles of Marketing 7th ed.,Prentice-Hall ・マーケティングミックス マーケティングミックス変更→市場反応(認知率の増加、売上の増加など)を引き起こすことが目的。 →この場合には市場の反応とマーケティングミックスとを関連づけた分析が必要。 図表 マーケティングミックスの4P 出所)Kotler,Philip and Gary Armstrong(1996),Principles of Marketing 7th ed.,Prentice-Hall ・これらの決定を行うために、次のような統計的手法(多変量解析)が用いられている。 図表 戦略的マーケティングと統計的手法 *)主成分分析や因子分析は、これらの手法で分析する際に変数の数を減少させるために使われることもある。 3)マーケット・セグメンテーション:消費者の分類(市場のセグメント) ・マーケット・セグメントの基本的な考え方 「市場を何らかの意味で同質な消費者グループに市場を分割し、そのいずれかにターゲットを絞ることによって、マーケティング活動をより有効に展開する(片平 1987,p.97)」 ・セグメントの要件 ・識別可能 セグメントがどのような特徴を持っているかを特定できる。 ・十分な大きさが必要 目標にする意味があるだけの大きさがある。その大きさを測定できる。 →セグメントする際には、セグメントの規定、セグメントの大きさを測定することが必要 ・接近可能 セグメントに接近することができる。 例)スポーツ愛好セグメントには「スポーツ誌」への広告 ・反応の異質性 異なるセグメントに属する消費者のマーケティング変数への反応は異なる。 ・均一性 同一セグメントに属する消費者は十分に均一。 ・安定性 セグメントは時間的に安定。 ・セグメントの方法 アプリオリ・セグメンテーション 事前に基準を定めて、セグメントする。 例)女性用と紳士用(性別を基準) ヘビーユーザーとライトユーザー クラスタリング・セグメンテーション 多次元的な変数を基準として、それらが類似した消費者を集める。 →クラスター分析 ・例:ライフスタイル・セグメンテーション 消費者の行為、関心、意見などについて質問し、回答パターンの類似性によって消費者をセグメントする。 出所)片平(1987) 出所)日経夕刊5/20/97 4)知覚マップ(プロダクト・マップ) 消費者が製品、サービス、ブランドなどをどのように知覚しているかをグラフ上に示したもの。 ・製品の属性評価項目に基づく方法 各ブランドの複数の属性項目について消費者に評価させる。それを因子分析して、より少ない因子へと集約する。 各ブランドへの回答者の回答から得られた因子得点をブランド毎に平均する。 そして、因子を組み合わせてグラフに各ブランドをプロットする(因子分析による方法)。 →因子:消費者の評価の次元と考えることができる。 マップを描くことによって、各ブランドの位置づけを明確にできる(距離が近いほど、激しく競合しているはず)。 新しく製品を投入する際に、どの点を強調すればよいか、どのようなポジションを得たいかを把握できる。 例1 注)知覚マップ上の矢印は、因子負荷量ベクトル。 ベクトルの長さ=√(因子1の因子負荷量2+因子2の因子負荷量2) ベクトルの傾き=因子2の因子負荷量/因子1の因子負荷量 出所)片平秀貴(1987),『マーケティング・サイエンス』,東京大学出版会,p.127-129 出所)片平(1992),「マーケティングと競争」(大澤豊編『マーケティングと消費者行動 マーケティング・サイエンスの新展開』有斐閣) 5)知覚マップを使ったポジショニング変更:A社の事例(片平,1987,ch.1) ・企業の体質 保守的:頭で考えるよりもアシで稼ぐ マーケティング・サイエンス的アプローチ:ミドルマネジメントを中心に展開→頭から邪魔者扱いされることはない。 ・問題の所在 (数量的に大、利益への貢献度高い)進物市場における自社製品の不振 ・彼らの問題意識 従来と同様の流通対策、広告支出の増大では解決できない。 ポジショニングの問題(事業部の製品が進物市場のニーズの動向にどれだけ対応するか) ・対策 S60年初頭 対策のためのプロジェクトチーム ・調査の実施 消費者へのインタビュー 小売店関係者へのインタビュー ・消費者へのアンケート調査からプロダクトマップ作成 →消費者ニーズの構造の明確化 (1)ニーズを規定する軸 高級さ、無難さ (2)贈答品の決定 贈る人によってことなるのではなく、贈る相手によってことなる。 (3)この事業部の製品 ほとんど同じものとして知覚されている 「高級感があり、実用性に乏しい」、おもに「会社関係」に贈答 出所)片平秀貴(1987),『マーケティング・サイエンス』,東京大学出版会,p.7 ・調査への反応 (1),(2):ぼんやりと感じていたこと。 (3):大きなショックを与えた(バリエーションを増加したつもりだったが、そうは知覚されていない)。 → 「そんなはずはない」 ・さらなる調査の実施 消費者へのインタビュー、小売店へのインタビュー (3)の再確認。 →調査からの結論 差別化を推進してきたつもりであったものの、進物市場全体の多様化がそれを上回るペースで進展。 全体からみるとA社の製品は同じように見えてしまう。 市場の奥行きの広がり:将来においては「高級感がある」という優位性が失われてしまう危険性がある。 ・事業部長への報告 以下の条件つきで改善する(事業部長からの指示)。 (1)現行の製品ラインを極力維持 (2)大がかりな製品開発を行わない (3)対前年比で3%増加が見込めること。 ・対策 共食いcanivalization 会社関係では高いシェア →これ以上は難しい。 →新しい製品ライン追加の必要性。 ・調査からの知見 贈答品の決定 贈る人によって異なるのではなく、贈る相手によって異なる。 →市場を贈答先タイプによって定義。 ↓ 友人・知人市場、親戚市場、お世話になった人市場などが候補。 ・事業部長からの条件に基づく絞り込み 友人・知人市場をターゲット →成長性がある そこでのニーズ:「現代的な感覚で、あまり実用的イメージの強くないもの」 ・実行案 (1)既存ラインの整理 共食いをおこしている。 →高級感の低い10アイテムを削除し、30アイテムとする。 (2)新ラインの追加 ターゲット市場 「友人・知人向け」 製品コンセプト 「現代的な感覚で、あまり実用的イメージの強くないもの」 ブランド名 既存ラインのイメージを保ち、差別化するために、まったく別のブランド名を用いる。 ・実行 コンセプトに沿って10アイテムを用意。 ・成果 前年比5%増。 ・その後も追跡が必要 既存ラインの高級イメージは損なわれていないか? ニーズの動向に変化はないか? ・成功の理由 マーケティング・サイエンス的議論へのアレルギーがない。 プロジェクト・リーダーがマーケティング・サイエンスと現場、双方の事情に通じており、他の部門の人々とコミュニケーションできた。 はじめに用いられた結果の多くが、関係者の直感と一致した。 6)広告表現についての研究 ・TVCFの特徴をコード化してコミュニケーション効果指標を説明。 広告効果指標によって説明する項目は異なる。 表 Stewart and Furse(1986)の結果 注*)製品分野修正済みの各変数を回帰分析。 **)p<0.05のによるステップワイズ回帰の標準回帰相関係数 ***)因子に集約されない項目 出所)Stewart and Furse(1986)の日本語訳書「成功するテレビ広告」日経広告研究所,1988年より作成 出所)日本経済新聞3/31/96 7)製品についての意思決定:模擬テスト・マーケティングモデルAssessorの例。 ・二つのモジュール:トライアル・リピートモデル、選好モデル 出所)上田隆穂、江原淳(1992),『マーケティング』,新世社、「4章 製品テスト」 出所)二木宏二、朝野煕彦(1991),『マーケティング・リサーチの計画と実際』,日刊工業新聞社,p.146 ・1300以上の新製品に適用。90%以上のケースで誤差は±10%以内 テストマーケットでのシェアとプリテストマーケティングモデルでの予測値との相関は高い。 ・プリテストマーケティングモデルに入力されるデータ (1)カテゴリ全般についてのデータ(市場規模、市場成長率、主要な競合相手とその特徴など) (2)実験室で収集される消費者の反応のデータ (3)マーケティング計画についてのデータ 特に(3)について注意することが必要。→あまりに楽天的なデータを入力しない。 ・適用例 Johonson Wax: Enhance クリームリンス:Johonson Wax:にはAgreeという製品があった(oily hairをきれいにする)。 1979年、damaged hairの人をターゲットとする新製品Enhanceを開発。シェアを予測するためにAssessorが用いられた。 ・blind test 大きなシェアをもつFlexとblind testによって比較。 電話で事前に選択された400名のクリームリンスの利用者(25才〜45才の女性) ラベルを消したEnhanceとFlexを渡して、3週間づつ使用させた。6週間後にインタビューして製品全体、個別の特徴についての選好を質問。→Flexよりも良さそうなので、Assessorによってさらにテストすることに。 出所)Clarke, Darral G.(1982) ・実験室調査 参加者:shopping mall で調査に参加する気があるかを質問。参加したいと回答した者が、参加。現在使用しているブランド、知っているブランド、次に買うとしたら買うブランド、各ブランドへの選好などに回答させる。 その後、広告を見せてそれへの反応を回答させる。さらに、2.25$分の引換券を与えて、模擬店舗で買い物させた。購入しなかった者にはEnhanceを渡した。そして、4週間後に電話して、使用したか否か、使用した感想、再購入する意向などを回答させた。 ・ブランドの知覚 22の項目を設定。知っているブランドについて、7段階の評定尺度で回答させた。その結果を因子分析することによって、次のような因子が見いだされた。→消費者がクリームリンスを比較している潜在的な次元が明確に。 注)relative importanceというのは多分、寄与率のこと。 出所)Clarke, Darral G.(1982) ・知覚マップ これらの因子を縦、横軸にとって各ブランドの因子得点の平均値をプロット。 EnhanceはAgreeとの差別化には成功しているものの、conditioningという次元では、Condition、Sasoonよりも評価が低い。 SasoonはClean、conditioningともに評価が高い理想に近いブランドと評価されている。 出所)Clarke, Darral G.(1982) ・広告コピーの再生 非助成再生によって主要な広告メッセージの再生率を測定。 実験室でのfor dry hairについては半数近くの回答者が再生している。しかし、その他の点については再生率が低い。 出所)Clarke, Darral G.(1982) ・トライアル&リピートモデル 実験室でのトライアル率は23%。 電話調査した結果(4週間後に電話調査)、リピート率については、実験室で購入した人:60%、実験室で購入しなかった人:43% →ともにAssessorでテストされたブランドの平均値を下回る。 図表 ASESSORモデルの実施結果 トライアル率 リピート率 出所)Clarke, Darral G.(1982) 以上より、次のようなシェアの推定値が得られた 。 出所)Clarke, Darral G.(1982) 8)マーケティング(リサーチ)の将来と課題の鳥瞰図 ・データ量の増大(POSデータの整備) 出所)Eskin,Gerald J.(1985),'Tracking Advertising and Promotion Performance with Single-Source Data',Journal of Advertising Research,Vol.25,No.1,Feb./Mar.,pp.31-39 ・新しい情報技術の応用:コンピュータ上でのバーチャルショッピング環境(購買シミュレーション) コンピュータの画面上に仮想的な店舗を構成し、そこで購買させる。 →製品テストは「製品」をテストすることが中心で、コストも500万円程度。 この方法は、陳列方法、値引きといった販売促進の効果、パッケージの変更といった製品改良などについて、安価にテストできる。 出所)Burke,Raymond(1996)"Virtual Shopping: Breakthrough in Marketing Research",Harvard Business Review,Mar.-Apr.,pp.120-131 シミュレーション下でのシェアと市場にテスト導入後、POSデータで測定された実績値との比較 出所)Burke,Raymond(1996)"Virtual Shopping: Breakthrough in Marketing Research",Harvard Business Review,Mar.-Apr.,pp.120-131 9)その他のミクロ・マーケティングの研究範囲(○:三田で開講されている科目) ○消費者行動 ○市場調査論 ○マーケティング意思決定論 産業財のマーケティング ブランドの価値 広告 価格 など 4.商業学への研究アプローチと今後の講義 1)ミニ・ケース『危機に瀕したブランドを救う二つの戦略オプション』 このケースを読んで、以下の問いに答える。 Q1:この事例では何が問題となっているのか? Q2:問題に対して2人の示した解決策とは何か? Q3:これらから、あなたの解決策を考える。 2)参考文献:学習ガイドにかえて(*は初学者むけ) ○商業学について(この学校でいう広い意味での「商業学」についての教科書は存在しない。以下は商業資本について書かれたもの) 荒川祐吉(1983),『商学原理』,中央経済社 石原武政、池尾恭一、佐藤善信(1989),『商業学』,有斐閣Sシリーズ* 久保村隆祐、荒川祐吉編(1974),『商業学 現代流通の理論と政策』,有斐閣 鈴木保良(1963),『商業学15講』,税務経理協会 鈴木安昭、田村正紀(1980),『商業論』,有斐閣新書* ○ミクロ・マーケティングについて(マーケティング戦略、マーケティングマネジメント、マーケティングリサーチ、消費者行動など) 飽戸弘(1987),『社会調査ハンドブック』,日本経済新聞社* Aaker, David A. and Gorge S. Day,(1980),Marketing Research, Wiley(野中郁次郎、石井淳蔵訳『マーケティング・リサーチ』白桃書房,1981年) 二木宏二、朝野煕彦(1991),『マーケティング・リサーチの計画と実際』,日刊工業新聞社* 林、上笹、種子田、加藤(1993),『体系マーケティング・リサーチ事典』,同友館 本多正久、島田一明(1977)『経営のための多変量解析法』産業能率短期大学出版部 片平秀貴(1987),『マーケティング・サイエンス』,東京大学出版会 Kotler,Philip (1994),Marketing Management 8th ed.,Prentice-Hall(翻訳はあるが版が古い) Kotler,Philip and Gary Armstrong(1989),Principles of Marketing 4th ed.,Prentice-Hall(和田充夫、青井倫一訳『(新版)マーケティング原理』ダイヤモンド社,1995年) 日本マーケティング協会編(1995)『マーケティング・ベーシックス』同文館* 大澤豊編(1992),『マーケティングと消費者行動 マーケティング・サイエンスの新展開』有斐閣 上田隆穂、江原淳(1992),『マーケティング』,新世社 Urban, Glen L., John R. Hauser,and Nikhilesh Dholakia(1987)Essentials of New Product Management,Prentice Hall: NJ(林広茂、中島望、小川孔輔、山中正彦訳『プロダクト・マネジメント』プレジデント社、1989年) 和田充夫、恩蔵直人、三浦俊彦(1996)『マーケティング戦略』有斐閣 吉田正昭、和田若人、仁科貞文(1983),『マーケティング・リサーチ入門 消費者のこころを測る』,有斐閣新書* ○マクロ・マーケティングについて(流通論、学説史、商業史など) Bartels, Robert(1976),The History of Marketing Thought: 2nd ed.,Irwin(山中豊国訳『マーケティング理論の発展』ミネルバ書房、1979年), 江尻弘(1979),『流通論』,中央経済社 藤田貞一郎、宮本又郎、長谷川彰(1978),『日本商業史』,有斐閣新書 Kaynak, Erdener(1986),Marketing and Economic Development,Prager Publishers(阿部、白石訳『マーケティングと経済発展』ミネルバ書房) 三輪芳朗、西村清彦編(1991),『日本の流通』,東京大学出版会 成生達彦(1994),『流通の経済理論』,名古屋大学出版会 西村清彦(1996),『価格革命の経済学』,日本経済新聞社 田口冬樹(1991),『現代流通論』,白桃書房* 田村正紀(1986),『日本型流通システム』,千倉書房 ○その他(商業学、マーケティングでは統計データを使った実証が主流になるでしょう) Hicks, John R.(1969),A Theory of Economic History,Oxford Univ. Press(新保博、渡辺文夫訳『経済史の理論』講談社学術文庫、1995年) Hunt, D. Shelby and John J. Burnett(1982),The Macromarketing/Micromarketing Dichotomy: A Taxonomical Model,Journal of Marketing,Vol.46,Summer,pp.11-26 小林康夫、船曳建夫編(1993),『知の技法』,東京大学出版会 東京大学教養学部統計学教室編(1992),『統計学入門』,東京大学出版会 富永健一(1995),『行為と社会システムの理論』,東京大学出版会 通産省商政課編(1989),『90年代の流通ビジョン』,通商産業調査会 通産省商政課編(1995),『21世紀の流通ビジョン』,通商産業調査会 通産省,『商業統計表』 通産省,『商業動態調査』 総務庁,『家計調査年報』 総務庁,『消費実態調査』 参考)マーケティング意思決定における創造性 創造性→どれだけ多様な(かつ望ましい成果が得られそうな)選択肢を挙げることができるか? 創造性についての一つの定義とその決定要因。→創造性について二つの次元がある 。 novelty meaningfulness ・創造性に影響を与えそうな要因群と実証結果 +マクロ環境についての知識 -business以外の教育を受けた(単位をとった)→創造性を発揮するためにはbusinessについての深い知識が必要? +モチベーションが高い +リスクを恐れない +他者と相互作用する 計画プロセスは中程度がよい。(無計画でも、あまりに計画的でもだめ) -time pressure 時間の余裕があった方がよい。 出所)Andrews, Jonlee and Daniel C. Smith(1996),"In Search of the Marketing Imagination: Factors Affecting the Creativity of Marketing Program for Mature Products," Journal of Marketing Research,Vol.33,May,pp.174-187