情報処理III(データとの対話)

2002年度 秋学期
教材

 担当者 濱岡 豊














教材の内容

I.講義について
II.講義ノート
III.コンピュータ演習で用いるデータについて
IV.ケース課題とケース
 



 講義を履修してくれてありがとう。一緒に情報処理3(データとの対話)の勉強をしてゆきましょう。
 

 

1.意義と目的
 視聴率の1%の違いにテレビ局は一喜一憂していますが、(関東地区の)視聴率のデータはわずか300世帯を対象として調査されたものなので誤差を含んでいます。1%というのは誤差の範囲であり、1%の違いには統計的には意味がないのです。このように世の中はデータにあふれていますが、それを正しく読んで使いこなせている人は意外と少ないのです。あなたも知らないうちにデータにだまされているのかも知れません。
 データとは、ただそこにあるのではなくて、データがいかに収集され、どのような方法で分析されたのかということを知らなくてはなりません。つまり、データとあなたが対話することによって、はじめてデータのもつ意味が明確になり、かつ意味をもってくるのです。
 この講義では、商学において使われるデータと対話するための一連のプロセスを紹介し、かつ演習を行うことによって体得してもらいたいと考えています。

2.講義の方法
 内容、スケージュールについては別紙参照

 『方法』講義の他、コンピュータによる演習、ケース演習等を行う(それぞれ個人もしくはグループ単位で行う)。
 『成績評価の方法』
 下の(1)〜(3)を総合評価します。
  (1)グループもしくは個人での小課題(ほぼ毎回)、ケース課題
  (2)講義への参加(出席、発言、受講態度)
  (3)自主研究レポート
   自分たちの設定したテーマに沿ってデータを収集、分析して、その結果をレポートとしてまとめる。簡単な相談には乗れますが、基本的には自分(たち)で責任をもってして下さい。分析手法が高度か否かは、あまり重視しませんから、自分たちの理解している範囲の手法を用いて分析して下さい。

図表 成績の評価方法

ウエイト % 
小課題  40 
ケース課題  10 
自主研究中間報告  プレゼンテーション 
レポート内容 
自主研究最終報告  プレゼンテーション  10 
レポート内容  15 
発言等  10 
出席 
合計  100 

 分析用のデータは、各自ダウンロードすること。詳細は教材もしくは私のホームページを参照。

・コンピュータ演習レポート、ケースの評価について
 個々のレポートについて以下のように評価する。

 A(100)
 B(80)
 C(60)
 F(0)

 コンピュータ演習小課題、ケース演習ともに全レポートの平均点を評価点とする。

・レポートについて
遅延レポートは受け付けない
手書きではなく、ワープロなどで作成すること。 A4サイズで紙に印刷して提出(メールでは受け付けない)。
授業が始まる前に教卓に提出すること。表紙は特に必要ない。
レポートについては、グループで1通提出すれば良い。

・小課題レポートの内容について
 小課題は、その日にならった手法の使い方、解釈の仕方を復習&確認することが目的。
指定する変数について分析、解釈してみること。
なお、自分たちでデータを用意できる場合には、それについて分析してもよい。
SASからの出力だけではなくて、なぜ、その変数に注目したのか、分析結果からなにが読み
とれるかを記述すること(出力のみを提出した場合は評価0)。

・講義での発言の評価について
  質問や意見をいった:1点  よい発言をした、フォローした :2点  
 のように加算する。
 最も発言得点が大きい人を100点とするように、以下のように評価。

発言点=あなたの発言得点/最大得点の人の得点 ×100

・出席の評価について
 アンケートへの記入に基づき、各回の出席を評価。
  1. 遅刻しなかった。       1.0点
  2. 5分未満の遅刻         0.5点
  3. 5分以上の遅刻         0.25点

 出席点=Σ各回の出席点/授業回数×100

3.テキスト
 特に指定しない。プリントを生協で販売する。

4.学生への要望

 ハードかも知れないが、何かが残るような講義にしたいと考えていますので、その覚悟がある人のみ参加して下さい。パソコン演習を行うので、履修者数の上限は50名程度となります。希望者が多数の場合には抽選を行いますから、初回の講義には必ず出席して下さい。PCのアカウントを取得しておいて下さい。
 

5.注意事項

1)ケース演習や演習、自主研究の進め方
 3名以内のグループでレポートを作成してよい。ただし、グループの構成員は同一評価を与えるので、適切な人員構成を行うこと。
 個人での参加もできる。
 ケース毎に課題を与えるので回答したレポートを作成する。

2)履修上の注意・その他
 具体的な事例を紹介しながら、「手法」ありきではなくて、「問題」ありきという発想で、統計学、数学などの高度な知識がない者でも理解できるように講義を進める予定です。数学については高度な知識を前提としませんが、数字や数式に対するアレルギーは困ります。また、データを実際に分析してもらうので、コンピュータ、ソフトウエアパッケージの使い方については各自、時間外で学習してください。
 どのような職業についたとしても、必ず多くの情報、データを参考にして分析、意思決定していくと思います。本講では、そのような場合の参考になるような手法や事例を中心に論じたいと思っています。

3)その他連絡事項
・レポート提出などについては、社会との対話ホームページを参照。
・ホームページにはこの講義やマーケティング(リサーチ)に関連する情報が入れてありますので参照して下さい。
http://www.fbc.keio.ac.jp/~hamaoka
・掲示板も設置されているので活用してください。
・出席、発言アンケートに毎回、回答して下さい(ホームページからリンクできる)。
 


図表 講義内容とスケジュール
ホームページを参照


○参考文献

1)統計学、多変量解析
(1)初級
市川伸一、大橋靖雄、岸本敦司、浜田知久馬,(1994),『SASによるデータ解析入門 第2版』,東京大学出版会
統計は本で読むだけでなく、具体的な問題について、自分で分析しながら勉強していく方が効率的。この本は、統計パッケージSASの使い方を紹介したものだが、基礎的な統計学、回帰分析、因子分析などの手法も紹介されている。
高橋伸夫(1992),『経営統計入門  SASによる組織分析入門』,東大出版会
SASを使ってアンケートデータを分析するための方法を述べた本。アンケートの作り方なども詳細に記述されている。ただし分析についてはクロス集計表の分析が主であり、回帰分析がほんの少し、因子分析やクラスター分析は出てこない。手法以前に調査の考え方を考えたい人にお奨め。
本多正久、島田一明(1977)『経営のための多変量解析法』産業能率短期大学出版部
経営において直面する問題(店の売上をあげるにはどうするか?)を取り上げており、それを解決するための、いろいろな方法が紹介されている。各章とも例えば、「回帰分析とは」という節で具体例を紹介し、「数学的定式化」、「結果の解釈」という順に記述されている。考え方を知りたい人は「数学的定式化」のところは、読まなくても大丈夫。
柳井晴夫、岩坪秀一(1976)『複雑さに挑む科学  多変量解析入門』, 講談社ブルーバックス
新村秀一(1976)『パソコン楽々統計学  グラフで見るデータ解析』, 講談社ブルーバックス
東京大学教養学部統計学教室編(1992),『統計学入門』,東京大学出版会
統計学の基礎概念を紹介している。
東京大学教養学部統計学教室編(1994),『人文・社会科学の統計学』,東京大学出版会
経済統計や標本調査、調査法など、人文・社会科学の統計学について幅広く紹介されている。ただし、因子分析やクラスター分析などについては紹介されていない。
鈴木正俊(1995),『経済予測』,岩波新書
鈴木正俊(1985),『経済データの読み方』,岩波新書
渡部、鈴木、山田、大塚(1985),『探索的データ解析入門』,朝倉書店
津村、淵脇、築林(1988),『社会統計入門 第2版  経済学を学ぶ人のために』,東京大学出版会,
Huff, Darrel(1954),How to Lie with Statistics,(高木秀玄訳『統計でウソをつく法  数式を使わない統計学入門』講談社ブルーバックス、1968年)
Manly, Bryan F. J.(1971),Multivariate Statistical Methods: A Primer,(村上正康、田栗正章訳『多変量解析の基礎』,培風館,1992年)
多変量解析の数学的な背景の初歩的な部分を知りたい人にお奨め。薄い本で読みやすいが、数学的な記述が中途半端なのでフラストレーションがたまるかも。

(2)中級
Hair, Jr., Joseph, Rolph E. Anderson, Ronald L. Tatham, and William C. Black,(1995),Multivariate Data Analysis with Readings 4th ed.,Prentice Hall: NJ
多変量解析の各手法について、分析の手順や結果の解釈の方法などが述べられている。理論的な背景が説明されていないので、物足りない気もする。しかし、SASの出力結果の読み方などが例示されており、単に使いたいという人にはよい。また、各手法毎に、その手法を適用した主にマーケティングの論文がreadingsとしてつけられているのが便利。
圓川隆夫(1988)『多変量のデータ解析』, 朝倉書店

(3)上級
Johnson, Richard A. and Dean W. Wichern(1992),Applied Multivariate Statistical Analysis 3rd ed.,Prentice Hall: NJ
数学的な背景について詳細に書かれているので、興味がある人にはお奨め。Manlyでは物足りない人に。
奥野忠一、久米均、芳賀敏郎、吉澤正(1971),『多変量解析法』,日科技連
古い本なので新しい手法については述べられていない(回帰分析、因子分析、主成分分析、クラスター分析などに限定されている)が、数学的な背景について詳細に書かれているので、興味がある人にはお奨め。

2)マーケティング・リサーチ全般
(1)初級
飽戸弘(1987),『社会調査ハンドブック』,日本経済新聞社
調査のあり方、サンプリングなど、基本的な考え方がわかりやすく書かれている。調査の心構えを作るには良い本。社会調査とタイトルにあるが、市場調査にもそのまま使える。
いろいろな調査に使えそうな調査項目の例(ライフスタイル、フェイスシートなど)がV部に採録されている。ただし、選択肢の番号の付け方は、よくない。
二木宏二、朝野煕彦(1991),『マーケティング・リサーチの計画と実際』,日刊工業新聞社
マーケティングリサーチの実務家による本。わかりやすく書かれている。
後藤秀夫(1996)『市場調査ケーススタディ』みき書房
1つのトピックを見開き2頁で簡単に紹介し、具体的な事例もあわせて紹介しているので、わかりやすい。
林、上笹、種子田、加藤(1993),『体系マーケティング・リサーチ事典』,同友館
最近のマーケティングリサーチの日本語の本の中では、比較的好評な本。いろいろ出ているが、項目の整理を図表などをつかって、もう少しうまくやって欲しかった。
辻新六、有馬昌宏(1987)『アンケート調査の方法  実践ノウハウとパソコン支援』朝倉書店
著者らの行った調査を題材として、アンケート調査の進め方全般や、調査票の作成、サンプリングなど非常に細かいノウハウが具体的に、わかりやすく記されている。まとめの表が多く便利。ただし、調査は全て名目尺度で行われているので、分析についてもクロス集計どまり(メトリックなデータについての分析は紹介されていない)。
吉田正昭、和田若人、仁科貞文(1983),『マーケティング・リサーチ入門  消費者のこころを測る』,有斐閣新書絶版
出版年は古いが、手法ありきではなくて、問題ありきの発想で書かれたコンパクトな良書。

(2)中級
Aaker, David A., V. Kumar, and Gorge S. Day(1998)Marketing Research 6th ed., Prentice Hall: NJ(野中、石井訳『マーケティング・リサーチ』白桃書房、1981年はこれの初版の翻訳)
翻訳は読みにくく、古いので原書を読むべき。

(3)上級
Bagozzi, Richard eds.,(1994),Principles of Marketing Research,Basil Blackwell: MA
Bagozzi, Richard eds.,(1994),Advanced Method of Marketing Research,Basil Blackwell: MA
ともにマーケティングリサーチで用いられる基本的な手法、進んだ手法の数学的な背景を解説している。

3)マーケティングについて
(1)初級
陸正(1994),『変わる消費者、変わる商品』,中公新書
花王の元調査部長による、花王でのマーケティングサイエンスの実践例(初心者向け)。
Kotler,Philip and Gary Armstrong(1996),Principles of Marketing 7th ed.,Prentice-Hall
マーケティングの入門書。日本語訳は原書5版の翻訳。
Kotler,Philip (1994),Marketing Management 8th ed.,Prentice-Hall
マーケティングの必読本。日本語訳あり。
日本マーケティング協会編(1995)『マーケティング・ベーシックス』同文館
日本の研究者が分担執筆した入門書。マーケティングリサーチの項もあるが、物足りない。
Urban, Glen L., John R. Hauser,and Nikhilesh Dholakia(1987)Essentials of New Product Management,Prentice Hall: NJ(林広茂、中島望、小川孔輔、山中正彦訳『プロダクト・マネジメント』プレジデント社、1989年)
新製品の開発、導入の際に行われるマーケティングリサーチ手法が述べられている。事例も豊富で数式も出てこずわかりやすく書かれたもの。
和田充夫、恩蔵直人、三浦俊彦(1996)『マーケティング戦略』有斐閣
日本の研究者が分担執筆した入門書。ページ数が多い割に安価で、細かい概念も紹介されている。マーケティングリサーチの項もあるが、物足りない。

(2)中級
大澤豊編(1992),『マーケティングと消費者行動 マーケティング・サイエンスの新展開』有斐閣
定量的なマーケティングの入門書。
上田隆穂、江原淳(1992),『マーケティング』,新世社
マーケティングサイエンスの入門書。ただし、内容には筆者の好みが顕著に現れているので、体系的とはいえないが、リサーチのための項目なども説明されている。

(3)上級
Dolan, Robert J.(1993),Managing the New Product Development Process; Cases and Notes,Addison-Wesley: MA
新製品開発の局面に限定されているが、そのためのマーケティングリサーチ手法についてのノート、ハーバードのケースが収録されている。
片平秀貴(1987),『マーケティング・サイエンス』,東京大学出版会
知覚マップなど、この講義で紹介する手法やモデルについて説明されている。数学的な背景に興味がある方にお勧め。
Urban, Glen L. and John R. Hauser,(1993),Design and Marketing of New Products 2nd ed.,Prentice Hall: NJ
Urban, Glen L., John R. Hauser,and Nikhilesh Dholakia(1987)と内容はほぼ同じだが、数学的な背景も説明してある。

4)自主研究に参考になると考えられる文献
小林康夫、船曳建夫編(1994),『知の技法』,東京大学出版会
各学問分野の考え方、調査の方法、論文の作法、プレゼンテーションの方法など、大学生が研究をするために必要な技法が紹介されている。
Eco, Umberto(谷口勇訳『論文作法 調査・研究・執筆の技術と手順』、而立書房、1991年)(1977),Come si fa una di laurea
猪口孝(1985),『社会科学入門』,中公新書
梅棹忠夫(1969),『知的生産の技術』,岩波新書
5)参考になる研究例
飽戸弘編著(1994),『消費行動の社会心理学』,福村書店
飽戸弘編著(1994),『政治行動の社会心理学』,福村書店
Cillins, James C. and Jerry I. Porras(1994),Built to Last: Sucessful Habits of Visonary Companies,(山岡洋一訳『ビジョナリーカンパニー』日経BP、1995年)
朝倉(1991?)『日本史再発見 理系の視点から』朝日選書
石井健一(1994),「経済動向と消費意識」,(飽戸弘編著『消費行動の社会心理学』福村書店),p.230-248
石川経夫(1993),「日本の労働市場の構造  賃金二重構造の理論的検討」,(伊丹、加護野、伊藤編『リーディングス 日本の企業システム 第3巻 人的資源』),p.248-275
加護野、野中、榊原、奥村(1993),「日米企業の戦略と組織」,(伊丹、加護野、伊藤編『リーディングス 日本の企業システム 第2巻』),p.107-144
中村青志(1993),「企業ランキングの変遷  鉱工業上位100社と運輸・電気・ガス業上位30社」,(伊丹、加護野、伊藤編『リーディングス 日本の企業システム 第4巻 企業と市場』),,,p.341-379
成生達彦、鳥居昭夫(1996),「流通における継続的取引関係」,(伊藤秀史編『日本の企業システム』東京大学出版会),p.183-214
小田切宏之(1989),「利益率と競争性」,今井賢一、小宮隆太郎編『日本の企業』東京大学出版会、1989年,p.215-233
岡崎哲二(1996),「戦後市場経済移行期の政府・企業間関係」,(伊藤秀史編『日本の企業システム』東京大学出版会),p.317-348
榊原清則(1993),「アメリカの研究者と日本の研究者  年齢はどのように影響するか」,(伊丹、加護野、伊藤編『リーディングス 日本の企業システム 第3巻 人的資源』),p.300-320
篠原三代平(1994),『戦後50年の景気循環  日本経済のダイナミズムを探る』,日本経済新聞社
Stewart, David W. and David H. Furse(1986),Effective Television Advertising,D.C.Heath and Company (堀健司郎訳『成功するテレビ広告』日経広告研究所)
高橋伸夫(1995),『経営の再生』,有斐閣
田村正紀(1986),『日本型流通システム』,千倉書房
植草益(1982),『産業組織論』,筑摩書房
渡部久哲(1994),「消費者行動と価値観の変化」,(飽戸弘編著『消費行動の社会心理学』福村書店),p.152-172